人見知りを克服するために、ナンパをしようと試みたあの頃の話

 

小さい頃から、人見知りだった。

近所のおばさんに挨拶するのにもモジモジしてしまう。それは、大人になった今でもあまり変わっていない。

 

それに加え、人前に出るのが苦手で、大勢の前で話をするなどもってのほかである。カラオケなんて、この世から消え去ればいいとさえ思う。

 

そんな自分を変えたくて、何かできることはないかと策を練っていたのが20代前半の頃。

 

その頃の僕は、東京の「中目黒」といったおしゃれな人やおしゃれっぽい人、おしゃれを気取った人からおしゃれじゃない人やらおしゃれを履き違えた人が混在するカオスな街のとあるおしゃれではない飲食店で勤務していた。

 

 

それとはまったく関係ないが、

 

 

「よし、ナンパをしてみよう」

 

 

ふと、そう思ったのだ。

 

ナンパというのは完全なアカの他人に話しかけるわけだから、人見知り克服にもなるし、もし成功すればいろいろと儲けものだ。コレをきっかけに彼女なんてできちゃったり。

 

そんな淡い期待を持って、聖地渋谷へと繰り出した。

 

もちろん夜。街を歩く様々な女性を、眺めていた。これは変態なのだろうか。

 

渋谷にはまぁキレイな女性が多い。

 

だが、もともと人見知りの自分がいくら好みの女性を見つけたところで、簡単に声をかけられるはずもない。

 

近所のババァへの挨拶でさえ緊張するのだ。好みの女性に声をかけるなど、無理だ。

 

それに、そもそも、ナンパとはどうやってするのだ。なんと声をかければいいのだ。

そんなことも全くわからない。

 

夜の渋谷で、女性を物色するも声をかけられずもじもじする20代前半の前髪長めの色白男性。はたから見ればただの不審者だ。

 

なんと声をかけようか…

 

「へ、へぃ彼女ぉ」

コレは無理だ。キャラではない。

 

「あ、お姉さん一人っすか?どうすかこれからご飯でも?」

これも無理だ。そんな軽いノリで生きたことはない。

 

だが、そんな自分を克服するためのナンパである。

 

そう、つまりナンパ自体は失敗でかまわないのだ。目的はナンパではなく、人見知りを克服することなのだから。

 

そう自分に言い聞かせて女性を引き続き眺めていた。

 

そして、好みの女性が歩いてくるのが見えた。ここでやらねば男ではない。よし…いくぞ…声をかけろ…どうする…なんて声をかける…自分にとってハードルの低い声のかけ方はなんだろう…

 

 

そして近づき、満を持して、言葉を発したのだ。

 

 

「あ、あのぉすみません」

 

よし…あと一息だ…

 

 

 

中目黒ってどうやって行くかわかりますか?

 

 

もう一度言うがこの当時の自分の勤務先が、中目黒だ。

 

 

だが、自分にとってハードルの低い声のかけ方と言えば、「道を聞く」以外に思いつかなかったのだ。

そしてとっさに出てきたのが、最も知っている中目黒への道だった。

じゅうぶんに行き方は知っている。毎日通っているのだから。

 

 

だがこの方法は、不信感も若干だが拭えるため、意外と女性は応じてくれる。中には完全なるシカトをする女性もいたが、大体の女性は答えてくれた。

 

そう、夜の渋谷で、ぼくは数人の女性に中目黒への行き方を尋ねるといった行為を繰り返した。これはきっと変態ではないだろう。

 

ある女性はスマホの地図まで表示してくれ、丁寧に教えてくれた。

 

またある女性からは「え?中目黒?歩きですか?何時間歩くつもりですかwww」と、いった返事が返ってきたこともあった。

 

 

 

「数十分で着くわ」

 

そう思ってしまった。

 

 

渋谷の女性は、思ったより親切だ。

 

だがどう考えてもこれはナンパではない。ただ中目黒への道を訪ねているたけで、これでは中目黒への行き方が詳しくなるだけだ。というかその辺の女性よりすでに詳しいだろう。毎日通っているのだから。

 

だがこの日は、声をかけることができただけでもう満足だった。成長した。もうババァへの挨拶など屁でもない。

 

 

それから日を変えて、再チャレンジを試みた。

 

もう一度渋谷に出たぼくは、今度こそ違うパターンで声をかけようと意を決して行動に出た。

 

 

「あ、すみませんっ…」

 

よし…いけっ…

 

 

 

 

ここから一番近い郵便局ってどこですかね…?

 

 

今度は郵便局への行き方を聞いてやった。もう、中目黒への行き方はマスターしたのだから。次は郵便局だ。

渋谷の郵便局は、意外とわかりにくい。

 

そのちょっとギャルっぽい女性は、親切に答えてくれた。だが思ったより遠く、そもそも方向音痴であった自分にはたどり着けなかった。

 

 

いや、そもそも郵便局に用事はないのだ。

人見知りを克服したいのだから。

 

 

そういえば、このナンパ(?)を実行する数日前、知人の女性がこんなことを言っていたのを思い出した。

 

それは、後ろから「コレ落としましたよ」と声をかけられ、振り向くと買った覚えのない”うまい棒”を手に持った男性がいたとのことだ。

そう、これもまた、ナンパである。声をかけるきっかけをうまく作り出している。さすがだ。素晴らしい。

 

ちなみにその女性は、買った覚えはないものの、

 

「あ、ありがとうございます」とそのうまい棒を受け取ったらしい。

見事ではないか。

 

これだ。これがやりたい。これなら自分でもできる。

 

だが、そのままマネをしてしまったのでは面白くない。

 

そこで、僕はあらかじめ自分で”ぷっちょ”を買っておいた。うまい棒ではないからマネではない。オリジナルである。

 

 

そしてそのぷっちょを持って、女性に声をかける。「コレ、落としましたよ」と。

 

 

「あ、いえ、違います」

 

 

コレ以外の返事が返ってくることはなかった。

 

 

場所が悪いのだろうか。

 

 

そう思った僕は、場所を渋谷から三軒茶屋へと移し、同じくぷっちょで試みた。

 

「これ、落としましたよ」

 

 

「うわっ…びっくりしたぁ」

 

そう言われた。これ、かなり不審者ではないだろうか?こんなところに書いてしまっていいのだろうか?

 

しかも僕はその後の話の展開方法を知らないため、ただ「落としましたよ」とぷっちょを見せつけ、女性がどんなリアクションを取ろうが、結果として

 

「……」

 

 

となる。やはり、ただの不審者だ。

 

結局ナンパは成功せず、人見知りは克服したのかと言われればそれもわからない。というか、おそらくはしていないだろう。

 

だが、一つ言えるのは、東京の女性は親切である、ということだ。

 







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